2012年03月12日(月)
「係長、これなんですか?」
俺は、係長の背中にあるボタンを指さして聞いた。オフィスが一瞬にして静かになる。オフィスの耳という耳が、一斉に、俺と係長に集まっているのがわかる。
わかってる。
俺だってわかってるさ。
でも、これ以上、社内の微妙な空気に耐えられなかったんだ。
係長の背中にボタンがあったら、聞くだろ? 聞いちゃうだろ?
たとえ、係長の存在感が薄すぎて、いつからそんなボタンが着いたのか誰も気付かなくて、聞きづらくなってから早一週間。完全にタイミングを失ってるけど。でも、それでも、気になるだろ?
係長は、俺のそんな葛藤やオフィス中の注目を、知ってか知らずか微笑んで答えてくれた。
「はてブボタンだ」
「は?」
「はてブボタンだ。私がいい事を言ったら、押してもいいんだぞ?」
「は、はぁ……」
「あとで見れるし、ブクマの数で今の話題もわかるしな」
「え、えぇ……じゃあ、今度、ブクマさせて頂きます」
「そんなに構えなくてもいいよ。気軽に押していいんだからね」と、俺の顔を見るので、仕方なく、係長の背中のボタンを押した。
係長は、親指を立てて、「いいね!」と言った。
「あの……ひとつだけ聞いてもいいですか?」
係長はご機嫌で、いいよいいよと2回頷いた。
「そのボタン、誰に着けてもらったんですか?」
係長は、照れながら、言った。
「ウチの妻が買ってきてくれたんだよ。貴方に似合うからって。いやぁ、照れるなぁ……」
係長、きっと、トラッキングされてるんだろうな。