2012年03月03日(土)

中野ブロードウェイにあるヒダリジンガロで行なわれている『グッドタイミングクラブ2012』村上福寿郎個展に行ってきた。

ヒダリジンガロは、世界的な芸術家・村上隆の率いるカイカイキキの実験的な小さなギャラリー。そして、村上福寿郎さんは、その村上隆の実のお父さんである。村上福寿郎さんは、アーティストでも何でも無く、長年、タクシー運転手をされていた方なのだという。その傍ら、何十年もこつこつと段ボールを切り抜き、色を塗り続けた。そうして生み出されたたくさんの作品から数十点を選んで展示しているという。だから、作品の製作年はばらばらだった。2010年や2011年など比較的新しい作品がも多いが、1999年に作られたような古い一連の作品もあった。

奥に細長い鰻の寝床のような小さな白いギャラリーに入ると、恐竜、蛇、蝶、キノコ雲(?)など同じモチーフが何度も繰り返され、色とりどりの原色で塗られていた。作品にはタイトルが付けられていて、直接的な世の中への怒りや風刺が込められたものもあれば、形そのままのものもあった。それぞれの形ごとに特定のテーマがあるように思われた。

そして、全ての作品には値段が付けられていた。「一生懸命作ったものを売るなんてもったいない」という福寿郎さんに、無理やり値段を付けさせたという内容のツイートを村上隆さん本人がツイートされていたのを思い出す。お、いいなと思うものには、しっかり売約済を示すシールが貼られていた。

社会に向けられた怒り、繰り返されるモチーフ、鮮やかな色使い、継続する意思、そして値づけ。福寿郎さんの作品には、村上隆のルーツを感じさせるような気もするし、そうではないのかもしれないけれど、僕はとても面白く展示を見させてもらった。ハンドメイドのアルミのバッチをひとつ買って(380円!)、会場を後にしました。

ちなみに、会場には福寿郎さんご本人とその奥様がおられたので吃驚した。福寿郎さんは、しばらく他のお客さんと話をすると、お茶をしに行くとギャラリーの人に伝えて、二人で出ていかれた。とても穏やかな感じの素敵なご夫婦でした。

 

ピクシブジンガロにも行ってきた。

ピクシブなどで活躍されている藤ちょこさんの個展『藤色』が行なわれていた。こちらは、それなりに大きな会場がたくさんの人で埋まっていた。若くてきれいな女の子がお客さんに多いのに、まずビックリした。

絵を見ると、「あーこの人!」とすぐわかった。透明感のある精緻な背景とそれに埋もれないオリジナルキャラクターが特徴的で、デジタルで書かれた絵を、その絵の良さを損ねずにきれいに出力して額装してあった。近寄ってみても、とてもデジタルであることを感じさせない美しさで、これなら1枚、家に飾ってみたいなぁと思った。それぞれの作品には鉛筆で描かれた下絵が添えられており、値段は提示されていなかったが、それら3点(何が含まれているかはわからないが)で販売されているようだった。

会場の奥には物販コーナーもあり、そこの横には大きなモニターがおかれており、絵の製作過程が映し出されていた。これはデジタルならではだが、作者が見ている光景、そのモニターを映している。展示物の中で、そこが一番人だかりが多く、時折、観客から歓声が起こったりしていた。きっと、彼女たち(といってもいいくらい女性が多かった)も、同じように絵を描くのだろう。格闘ゲームを後ろで眺めるギャラリーを、僕は思い出していた。書き手と受け手の間に、今までにはないような微妙な距離感があるのだと思った。

あとで気づいたのだけど、そのモニターの裏には、藤ちょこさん本人がいて、そこで絵をライブペインティングで描いていたのだった。

 

その二つの展示を、まとめることは僕には出来ないし、意味はない気もするけど、どちらも、それぞれ、とても面白かったです。