2012年04月26日(木)

三巷文「Don't touch me!」 レビュー

 

ある「問題」から、彼氏とHできない少女を描く掌篇。

主人公は、その少女。物語は、少女の目線で語られる。

少女の悩みは「イキやすい体質」。この体質のせいで、大好きな彼氏との初体験は残念な結果に終わってしまう。彼女はこの事をコンプレックスに思っている。

物語は、初体験の回想からはじまり、次に通学のバスのシーンとなる。

バスの中では、少女の制服や通学かばんを上手く使い、状況を簡潔に説明する事に成功している。そればかりか、少女の同級生のキャラとの会話を挟む事で、他者の視線を取り込んでいる。

クラスメイトの台詞から、二人の関係が周知である事が自然に説明されるとともに、彼女の抱えている「問題」が、二人の間だけではなく、体面の問題も内包している事を示唆している。

そして、その他者の視線・体面といったものが、バスの中で彼氏と出会う事で、事件として明るみに出る。ここでも、バスという舞台設定とクラスメイトが、事件の重要さを示す役割を見事に果たしている。この事件を通して、彼女のコンプレックスが重大な問題である事が、読者にも共有されるだろう。

この事件をきっかけに、彼氏が少女をバスから連れだし、トイレの個室へと物語の舞台を移す。

選んだ舞台がトイレの個室という演出も憎いが、ここに彼氏の決断があり、行動がある事も見逃せない。

この行動は、いわば、彼女の体質の問題を、パブリックなものでも彼女個人の問題でもなく、二人の問題だと宣言する行為である。

この物語の主人公は少女であり、少女の視点で描かれるが、読者の大半は彼氏を通して少女を見る事で物語を読み進めるだろう。ここだけではなく、話の要所要所で、彼氏はしっかり物語を先導している。この事実は、彼氏への共感を生み、読者に清々しい読後感を与える事だろう。

二人だけになった空間で、少女は彼氏にコンプレックスをぶつけ、彼氏も彼女への思いをしっかり言葉で伝える。実はこの時点で、二人はおたがいの気持ちを確認する事で、問題はあらかた解決している。

しかし、彼女の「問題」がセックスに関する事であるため、スムーズにセックスへと物語を進める事が出来る。

クライマックスのセックスによって、そのコンプレックスは完全に解消される。ここでは、そのアクセントとして、キスという行為が、うまく使われている。ここらへんの試合運びの上手さは、作者の特色ともなっているように思われる。

この物語の主人公は少女である。

それは一見、主な読者層が男性である事を考えると大きなマイナス要素となり得る。

しかし、少女の「問題」が「イキやすい体質」なので、少女がイク描写に物語の構成から集中できる事、本当にいっている事を少女のモノローグで更に強固にできる事によって、大きなプラスへと転換している。

更に、モノローグが出ているコマは少女の表情がセットになる漫画のシステムを利用して、少女のイキ顔に自然とクロースアップするように出来ている。

実に巧みな構成である。

それでいて、少女がかわいらしく描けているすばらしい作品といえるだろう。

ちなみに、最後のコマで、問題が解決し大喜びする少女を前に、彼氏は「?」を浮かべている。実は、彼氏は少女と問題を共有していなかったという事がこの疑問符からわかる。

少女からの視点で描きながら、最後で「女はわからない」と軽く突き放す演出は、嫌味ではなく、爽やかですらある。

人との関係は、所詮、そんなもんであり、それでもお互いの事を大事に思っていれば、それは通じるのだというメッセージでもある。

二人の未来は、ずっと降り続いていた雨がラストシーンで止み、空が明るくなっている事からも暗示されている。